「もう一度、口からおいしい食事を食べてもらいたい」、その一心で頑張って治療しています。
嚥下障害は、今医療現場では非常に重要な問題になってきています。またこれからの団塊の世代が高齢化していくにつれて、より切実な問題になっていくでしょう。西洋医学的には、医師、歯科医師、看護師、理学療法士等がチームを組んで嚥下訓練をしていますが、かなりの時間と労力を要し経済的にも高負担となっています。
私は外来診療の他に在宅医療にも懸命に取り組んで参りました。その間、患者さんの嚥下障害や誤嚥性肺炎に随分と悩まされ、どうにかして患者さんの生活をより良いものにできないかと考え、日夜真剣に試行錯誤を繰り返してきました。短時間であまり労力を使わず、もちろん患者さん本人の努力も要らないそんな夢のような治療法をずっと求め続けてきたのです。 そして長い時間とたくさんの患者さんとの治療経験を通して、やっと自分でも納得のゆく漢方学的アプローチに到達したのです。
その方法とは、円皮針(留置針)による治療です。まず肺経、腎経というツボに4ヶ所施行するだけで、ほとんど経口摂取が可能になります。(施行時間は5分ほど)
これでも難しい患者さんには、脳幹、三叉神経(咀嚼筋の運動をつかさどる神経)、舌咽神経・迷走神経(咽頭の運動、感覚をつかさどる神経)、舌下神経(舌の運動をつかさどる神経)などの神経の働きを強化する為に、これらの神経の頭皮のポイントに円皮針を施行します。(中国の針といえば体にうつ体針療法と考えられ、それが鍼治療の主流ですが、この他に微針法という方法があります。これは痩せる針としてマスコミにとりあげられる耳針や頭に打つ頭針法、目の周囲に打つ目針法などです。)肺経(両肘)、腎経(両足首)と頭針法で、ほぼ嚥下障害には対応でき、再び口から食べられるようになります。これらの針を週に1回交換するだけで十分な効果があります。(円皮針を持って帰って自宅で同部位に打つことも可能です。)
ちなみに私の患者さんでは、胃瘻造設の方はおられません。誤嚥性肺炎も防げます。
最近、感動した1例を経験しましたので、報告します。
症例は、84歳男性で、吻合部狭窄の一例です。
平成25年12月18日 胃体部癌で腹腔鏡下胃全摘術+Rous-Y再建術施行。(stageⅢ)
平成26年1月14日より、食道に物がつかえる訴えがあり、食物が摂取不能となり、胃内視鏡施行しましたところ、吻合部狭窄をみとめました。
平成26年1月25日 入院にて吻合部狭窄に対してバルーン拡張術を週1回の割合で施行するも、バルーン後2~3日しか施行がもたない状況でした。
平成26年3月14日 バルーン拡張術(頻回)も辛く、(死を覚悟して)退院希望があり、退院となりました。
平成26年3月26日 在宅往診で加療となり、まず漢方薬「荊芥連翹湯」2.5g投与/包 2包投与しましたところ、著効し、1包/日投与は継続しているものの、その以後、食物のつまりはなく順調に経口摂取できています。
この漢方剤は、主に副鼻腔炎に使われていますが、ケロイドにも使用されていて、発想転換して、この吻合部狭窄もケロイドによる狭窄と考えて投与したところ、著効したと考えています。
現在、術後の吻合部狭窄で悩んでいる方が多いと思います。この漢方薬は、救い主になるのではと思っています。